歴史探偵

趣味の歴史、地理ネタを中心にカルチャー全般、グルメについて書いています。

”日本的なるもの”を解毒する サイボウズ

「石垣を作るように 人の個性を活かす」

なんだか武田信玄が言いそうなことだけど、これはサイボウズ代表取締役社長の青野慶久さんの言葉。

 

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先日、青野慶久さんの講演を聞く機会があった。最近、ネットでは夫婦別姓問題でよく記事になっているのを見る青野さんだが、今回の講演は「働き方改革」に関する内容。時々、関西風の訛りが出るしゃべりで、ものすごい数のスライドを次々に説明してゆく。

 

青野さんは「働き方改革」という言葉には違和感があるという。正しくは”働き方の多様化”なのではないか、と。実際サイボウズでは自分の都合に合わせて実に多種多様な働き方を選べるらしい。

 

残業しない、週3日勤務、時短勤務、副業を持つ…etc

 

このあらゆる働き方を可能にする人事制度を取り入れて以来、サイボウズの離職率は改善。2005年に最高28%だった離職率が、去年は約5%まで減ったという。

 

青野さんのお話を聞いている間、ずっと感じていたのは、青野さんはいわゆる日本的な考え方や行動様式に抵抗し、それらを解毒しているんじゃないか、ということ。

 

例えば…

 

①日本人は一緒であることを”良し”としがち

→サイボウズではひとり一人の多様なニーズに応える。みんな違ってみんな良い。100人いれば、100通りの人事制度があっていいじゃないか、というのが社のモットー。また多様な人材の方が組合せ次第で、総合的なチーム力はアップする、と。その点が冒頭の「石垣を作るように 人の個性を活かす」という言葉につながってくる。

 

②日本人は課題を”我慢や根性”で解決しがち

→サイボウズでは在宅勤務用のPCを配布したり、業務を引き継ぐためのグループウェアを充実させたり、全ての会議室にテレビ会議のシステムを取り入れたりしているという。課題に対して精神論でなく、実質的かつ具体的にアプローチ。

 

③日本人は主張をせず、空気を読んで”忖度(そんたく)しがち

→サイボウズには「質問責任」という言葉があるらしい。会社内で自分が疑問や不満に思ったことはきちんと上司に主張する、いや、むしろそうしなければいけない責任がある。また上司には「説明責任」が課せられており、部下の疑問に対して公明正大に説明する義務がある。また会社内の会議は機密事項やプライバシーをのぞき全てオープンになっていて、誰でも意見表明できる機会が与えられているという。

 

③など本当にユニークで、自分の在り方について明確に主張し、結果、会社の制度もオープンに変えられていくというのは、社内で”お手本のような参加型民主主義”を実践しているかのごとく。まるでアゴラに集まって喧々諤々議論をしていた古代ギリシャの民主政みたいだ。

 

「でもそれってなかなかタイヘンなことですよ」と青野さんは言う。ハタで見ているほどラクではない、と。それはそうだろうなあと思う。会社のことをジブンゴトとして捉え、きちんと主張してこそ”働き方の自由”に到達する。自由の裏側に責任が貼りついている。

 

自分の会社に置き変えてみたとき、自分がそんな個人になれるだろうか?

 

いや、無理だな。自分の主張を全て表明していたら、周りから浮いて終わってしまいそう。個人が自立すると同時に、その自立を支える制度も上から強制インストールしないと、サイボウズのような働き方も実現しない気がする。

 

とすると、それを可能にする実行力を持つ青野さん的カリスマ経営者の登場を待たないといけないのか。

 

青野さんの講演は大盛況で、自分は立ち見だった。意思決定できる立場の管理職クラスの人もたくさんいた。その人たちには「ええ話、聞いたなあ」で終わらせず、小さなことでも身の回りで実行してほしい。

 

少しでも風通しのいい職場を。

 

 

※日本人は「空気」を重視するため合理的な戦争遂行ができなかったことについて論じているTV番組の記事です。

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※サッカーロシアW杯で日本を決勝トーナメントに導いた西野朗さんの仕事論。

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