歴史探偵

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ニコタマが行楽地だった頃〜「東京」いまむかし@東京都立中央図書館〜

東京の鉄道は”砂利””行楽地”のためだったのか。

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鉄道の発達が賑わいを変える?

港区にある東京都立中央図書館(地下鉄日比谷線広尾駅から徒歩8分)で開催中の『「東京」いまむかし〜鉄道網の発達による賑わいの変遷〜』という企画展示。

東京の鉄道がいかに「東京の人が集まるスポットを作り出していったのか」ということを教えてくれる展示なのですが、これがなかなか面白いです。

京王線、東急線、京急線、JR中央線といった東京の鉄道の、明治〜大正に敷設された当時の「鉄道輸送の目的」が、現代の我々から見れば”へえ〜そのために作られたんだ…”というような意外なものばかりなのです。

 

京王線、東急田園都市線…”多摩川の砂利” ”多摩川へ行く観光客”

ポイントを列挙すると…

  • 京王線(明治43に設立)は「多摩川の砂利の採取」「多摩川畔への観光客の輸送」が目的。昭和2年には多摩川原(現在の昭島市)に娯楽施設・京王閣を開館。
  • 玉川電気鉄道(現在の東急。明治40に渋谷〜玉川が開通)も「多摩川の砂利を運ぶ」ために建設。しかしこの鉄道が開通したことにより、それまで大山道(神奈川県の大山に参詣するための街道)の一渡船場に過ぎなかった玉川(現・二子玉川)の河畔は世田谷随一の行楽地として発展していく。

自分はここでいちばん「なんと!」と驚きました。今、世田谷を代表するおしゃれタウンと思われてるニコタマが、もともとは渡船場だったとは…。その後、行楽地として発展したのち、現在の姿になったとは…。

明治42年には、玉川遊園地まで開設していたらしい。それにしても、戦前までは多摩川はモロに観光地だったんですね。

展示では、以下の説明も加えられています。

この(玉川電気鉄道の)発展過程は、京王電鉄の京王閣、京成電鉄の谷津遊園に似ていて、郊外へ向かう私鉄電車の沿線開発と集客対策を兼ねたパターンでもありました。

どの鉄道にも共通の発展パターンがあるというのも面白いです。共通のパターンが生まれるのは、敷設された時代の空気を反映しているからですね。

これについても展示解説が簡潔にまとめてくれていました。

大正から昭和にかけて鉄道網がはりめぐらされるようになると、各地で行楽地の開発や娯楽施設の整備が進められます。ここから都市の中流階級を中心に観光ブームが巻き起こります。

現在は少し事情が違います。

新たに敷設される鉄道、例えばつくばエキスプレスなどは、観光というよりもつくば地域と東京を往復する通勤・通学客を運ぶためのもの。時代のニーズが鉄道を作らせます。

 

京急と寺社の深い関係

時代のニーズと言えば、京急の発展の歴史も面白いです。

  • 京急はもともと大師電気鉄道といい、川崎大師への参拝客輸送を目的に明治32年に六郷橋〜大師間に開通。明治34年に品川方面に延長させる形で、六郷橋〜大森停車場前(現・JR大森駅前)を開通。明治35年に穴守線(現・空港線)を開通。 

寺への参拝客輸送がそもそもの京急の開通の目的。そして3年後に延長した路線も穴守稲荷への参拝客をねらったもの。これらもやはり行楽目的での敷設です。今でこそ、京急蒲田〜羽田空港の空港線は「空港があったから作ったんでしょ」と思いがちだが、神社にお参りする人を運ぶ方が先だったですね。

 

中央線は桜のため?!

ニコタマが渡船場だった、と同じくらいにびっくりだったのが、甲武鉄道(現・JR中央線)が敷設する際、工事が急がれた理由。

  • 甲武鉄道は玉川上水の通船(舟運)に代わる交通手段として計画された(←これも知らなかった!)。明治22年4月11日、新宿〜立川間で開業したが、それは工事着工からわずか10ヶ月のこと。開業を急いだ理由のひとつは、小金井堤の花見の時期に間に合わせるため。

中央線が工事を急がれるくらい求められた理由が、小金井堤の桜とは!そもそも小金井が鉄道工事のスケジュールを左右するほどの桜の名所とは知らなかったです。

小金井の桜について、再び展示の説明を引用しておきます。

向島や御殿山など多くも桜の名所が姿を変えた中で、玉川上水の小金井桜は280年以上にわたって江戸名所の姿を留める名勝地です。

(江戸時代は)江戸市中から遠かった小金井は、上野や飛鳥井ほどは混雑せず、当時は花見客は少ないようでした。(鉄道の開通により)新宿から武蔵境まで約30分と道程は飛躍的に短縮されました。  

小金井は単なる桜の名所というだけじゃなく、江戸期の雰囲気も味わえる場所でもあるんですね。

 

中央線・小金井は日本自生の桜が見られる

さらに…

小金井は日本古来のヤマザクラの並木が見られる貴重な場所。

らしいです。

サクラで最もポピュラーなのは、ご存じソメイヨシノ。

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ソメイヨシノは華やかでゴージャス。花は葉を伴わず、花だけで咲くので、視界いっぱい花で埋め尽くすだけの存在感があります。現代においてふつうサクラと言えばこの品種を指します。

しかし小金井はヤマザクラの並木が見られるといいます。

ヤマザクラはこの写真のような花です。

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花は葉が出ずるとともに開花します。なのでソメイヨシノのような圧倒的な花の存在感は生まれません。

しかし、それがゆえに花の白色に葉色が微妙に混ざって、自然の野趣に富み、ソメイヨシノとは違った素朴な味わいがあります。関西でいうと京都山科の醍醐寺がヤマザクラの名所として有名です。

まとめると小金井は歴史的にも植物学的にも非常の価値ある桜の名所ということになりますね。

 

件の企画展示は3月11日まで。東京の鉄道に対するイメージが変わります。

(展示は終了しています)

http://www.library.metro.tokyo.jp/edo_tokyo/tokyo/tabid/4429/Default.aspx

 

また展示の冒頭には東京の鉄道を3D化した美術作品も陳列されていました。この作品に関する記事はこちら。

candyken.hatenablog.com 

 

関連記事です。多摩川の砂利、穴守稲荷の変遷について書いています。

www.rekishitantei.com

 

常磐線を知ることは東京、日本の発展を知ることかもしれない。

www.rekishitantei.com